社長コラム

三国志から学ぶ(その22)運をつかむには

5月に入り若葉の時を迎えた。コロナのワクチン接種も始まった。人は希望や未来があるから運命に従い、逆境を耐えることができる。コロナもいつかは終わり、時は季節と同じように流れていく。それが自然の摂理である。時を待つことにより、機運(時のめぐりあわせ・物事をなす時期)が熟し、視界が開けていく。
今回のコラムでは、三国志の英雄たちが、人との出会い、窮地を乗り越え、どうやって運をつかんでいったかについて考察していきたい。
 (注:劉備玄徳=劉備・曹操孟徳=曹操・孫権仲謀=孫権・諸葛亮孔明=孔明・司馬懿仲達=仲達)


運とは何かについて、以前米国で科学的に実証できないものか試みられたが、最終的には解明できなかったという話を聞いた記憶がある。それほど運とは不可解なものであることが判る。成功者に「成功の秘訣は何か」と問うと、必ずと言っていいほど「運が良かった、人に恵まれた」ことを一番に挙げている。では成功要因の中で運が占める割合は、どの位であろうか。一説によると運が4割を占めると言われている。その他6割の要因は、才能1割、努力2割、残りの3割は志(目標)・気(エネルギー)・決断実行力・忍耐力・考え方(ピンチをチャンスと捉える) ではないだろうか。では、なぜ運が成功要因の4割も占めるのか。そもそも運とは何か。その運はどこから来るのか。その運をつかむにはどうしたらいいのか。三国志を通して紐解いていきたい。


運命に対して宿命という言葉がある。宿命とは自分がこの世に生を得る前から、既に定められたものである。この時代に、この国で、この両親から命を授かったことは自分自身では変えられないのである。これに対し、運命は変わるものである。そのように考えてみると、三人の英雄が同じ時代に、同じ中国で、生まれたのは宿命である。もし、そうでなかったとしたら、彼らは三国志の歴史に名を刻むことはなかったであろう。
三人は宿命のライバルとして戦った。どんな時代にもライバルは存在する。その中でトップに立てるのは、ただ一人だけである。仮にこの時代に彼らの中から一人の英雄だけが中国皇帝になったとすれば、その後の歴史は変わっていた。このことは曹操、劉備、孔明亡き後に、最後まで生き残った仲達が西晋の礎を築いて、後に中国統一を果たしたことで証明した。仲達は時の流れを読み切り、機運が熟した絶好のタイミング(天の時)を見事に捉えて天下を手中に収めた。領地、地形、気候風土、個性、考え方、軍師、戦略も異なる三人の英雄たちが、どうやって運をつかんでいったのか大変興味深い。


◆劉備玄徳
劉備の運をつかんだ最も大きな要因は、人材の招致、人心掌握である。衰退した漢の再興を果たすことで乱れた国内の秩序を取り戻す志を掲げ、「桃園の誓い」で張飛、関羽と義兄弟の契りを交わした。「三顧の礼」では天才軍師孔明を迎えることができた。まさに運命の出会いであった。もし彼らに出会っていなければ、劉備のその後の人生はまったく違ったものになっていたであろう。劉備の大業成就は仁義をもって人心をつかむものという考え方であった。人の心をつかむことは、運をつかむことに通じることなのかもしれない。三国の中で蜀は一番小国であったが、その中でも一番仁義を重んじたのが劉備であった。
また小さな善行を積み重ねた積徳の人でもあった。劉備の人間的魅力は運を引き寄せた。


◆曹操孟徳
曹操は実力的にみて三人の英雄たちの中で天下統一に一番近い人物であった。ある意味、同時代に劉備、孫権が存在したことは不運でもあった。赤壁の戦いではあと一押しで勝利を手中に収めていたところ、孫権、劉備連合軍の火攻めの策略により大敗を喫し敗走した。その追撃を任されたのが関羽であった。関羽は敗走する曹操に追いついた。だが、かつて曹操から受けた恩義を忘れていない関羽は曹操を逃がした。三国志での有名な名場面の一つであり、何とも言えない人間味溢れる味わい深い話である。人間は情で動く。追走軍の指揮官が関羽であって良かった。もしそうでなかったとしたら三国志はここで終わっていた。勝利目前の絶頂期から一転、絶体絶命の窮地に立たされ、死を覚悟した曹操の心中を察するに余りある。曹操は天に命を委ね、そして天は曹操を生かした。まさに天運である。天は「人生一寸先は闇ばかり」ではなく、その先に光もあることも教えてくれた。

赤壁の戦い後、曹操敗戦の弁がここにある。「此度は負けを味合う時が、来るべきして来たということだ。失敗は良いことである。失敗がいつかは我々を勝利に導き、天下を取る方法を教えてくれる」この言葉どおり曹操は、現実と向き合った。イライラせず、今打つべき手を打ち、後はなるようにしかならないと腹を括った。その後曹操が再起を図れたのは、これらの言霊(マイナスをプラスに変える言葉)に表れている。プラス言葉は運を引き寄せる。言葉は言霊となり自分に返ってくるからである。曹操が窮地の時に「もうダメだ、これで終わりである」とマイナス言葉を口に出していたならどうなったことであろうか。劉備が理想主義者であるとするなら、曹操は現実主義者であることは疑う余地もない。違う個性がぶつかり合う。だから三国志は面白い。


◆孫権仲謀
「その長ずる所を貴び、その短なる所を忘る」孫権を評した三国志故事である。
孫権は三人の英雄たちの中では地味な存在であったが、人材育成、内政外交に力を注いだことで有名である。内政外交に才のある魯粛、諸葛瑾(孔明の兄)、軍略の奇才で大都督の周瑜など、個々の強みを活かした適材適所で、部下との絆を深め国力を充実させた。最大のピンチは曹操軍が大軍を率いて侵略してきた赤壁の戦いであろう。孫権軍は兵力では曹操軍に圧倒的に劣っていたが孫権、劉備連合軍の火攻めの策略により大勝利を収めた。
その背景には戦場が長江中流沿いにあり、孫権軍が強力な水軍による戦を得意としたのに対し、曹操軍が陸戦は強いが水軍戦には不慣れであったことも幸いした。防御戦では地の利という運は味方にしたが、攻撃戦で北方(華北・中原)の魏を制し中国統一を図るには、その中間に領土(益州・荊州)を所有する蜀が立ちはだかり、荊州争奪戦に明け暮れ国力を消耗しすぎた。地政学的にみて、赤壁の戦いのような防御戦では地の利が幸いだったが、蜀より北方の魏までを制覇する中国統一には逆に災いとなった。もし孫権の領地と魏の北方(華北・中原)領地がそっくり入れ替わっていたとすれば歴史はどう変わっていただろうか。それは知る由もない。孫権は周瑜の亡き後も、名軍師陸遜、名将呂蒙(関羽を討ち取った将軍)など、優れた人材を排出した。地の利・優れた内政外交力・人材育成力により、長らく呉の安泰を保ったことは孫権がもたらした最大の泰運(安らかになる気運)であった。


三人の英雄たちに共通した要素は、統率力・決断実行力・忍耐力・ピンチをチャンスと捉える力・自分のエネルギーを引き出す力・情報収集力・自己肯定感(自分の可能性を信じる力)・洞察力である。そこに加わるのが「運」、すなわち天の時(実行のタイミング)・地の利(立地条件)・人の和(内部の団結)・徳・言霊である。その中で最も重要な要素は「人の和」であろう。逆に運を遠ざける要素は、怒りの感情だ。怒りの感情で心を取り乱せば、迷いが生じ、判断にも影響を及ぼす。怒りは己の敵である。とらわれすぎない、うろたえない、傲慢にならない、自惚れない、強欲にならない、思い込みを消す(事実確認)ことが大切である。夜更けの静寂の中で、三人の英雄たちが一人静かに思いにふける姿が目に浮かぶようだ。


さて運はどこからやってくるのか。
一般的には運は「運よく、いい時に、いい場所で、いい人と出会い、自分を支えてくれた」「たまたま、偶然にも、思いがけず」という計算外のようなスピリチュアル的な言葉で表現される。良くも悪くも予想外にやってくる不思議な出来事、運命的なもの、何か通じ合うもの、何かを感じ合うようなものである。
ちなみに筆者が考える「運」をつかむ要因は、①感性を磨く(インスピレーション)②ポジティブな言葉を使う(言霊)③物事の流れを読む④心を清める⑤ゴールイメージを可視化する⑥集中力を高める⑦毎日を感謝の念で過ごす⑧徳を積む⑨精神的なスタミナを養う⑩毎日を一生懸命に生きることを大切にするである。人生良い事と悪い事が交互にやってくる。まさに「禍福は糾える縄の如し」である。現実から逃げない現実受容が、運をつかむための大前提となる。人生とは先々何が起こるか判らない筋書きのないドラマである。
天のみぞ知る。この先の自分に何が待っているかを楽しみに思うしかない。


私事になるが筆者のGWは本棚と書類の整理(断捨離)に明け暮れた。物の整理整頓ができていないと感性が鈍り、運が逃げていくと言う家内の一言が効いた。物の整理は、心の整理、頭の整理へとつながる。整理された心の空間(隙間)に、新たな気(エネルギー)と運が入ってきた。つねに感性を磨き、心(精神)を清めておくことで運を呼び込む。
これも凡人である私なりの運をつかむ方法である。


海の向こうではエンゼルス大谷翔平の快進撃が続いている。現地メディアでは投手、打者の二刀流の和製ベーブルースとして脚光を浴びている。まさにスーパーマン的な大活躍だ。
ここに彼の大変興味深い逸話がある。「世界一になるには運が必要だ」とプロに入ってからもグラウンドやベンチで、誰かが捨てたゴミがあれば必ず拾っていたそうだ。「これは、ゴミを拾っているんじゃないんです。運を拾っているんです。だから楽しくてしようがないんです」と言っていたそうだ。劉備と同じく小さな善行の積み重ねの先に幸運が待っているかのような凄い話である。この先の大谷選手の活躍が楽しみだ。


次回に続く。


2021年5月25日


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