社長コラム

三国志から学ぶ(その17) 情報分析力

前回コラムは 対話力の基軸となる情報発信力(伝える力)について、三国志のリーダー、軍師達の実例を交えて語った。
今月コラムでは情報発信力(伝える力)を行う上で、重要な位置づけを占める事実・状況・シミュレーション等の情報分析力について考察していきたい。
(注:劉備玄徳=劉備 ・曹操孟徳=曹操 ・孫権仲謀=孫権 ・諸葛亮孔明=孔明 ・司馬懿仲達=仲達 ・周瑜公瑾=周瑜)


そもそも情報とは一体何であろうか?広辞苑には「状況の知らせ、事がらのようす、なりゆきなどの知らせ」とある。天下統一を目指した織田信長は、戦国大名の中でも最も情報収集(国内外の状勢等)に力を注いだと言われている。孫正義も「情報を制する者は市場を制す」と述べている。現代企業経営においても情報の重要性は益々増してきている。他者よりも早く情報収集する目的は、収集した情報の分析データを用いて、他に先んじて的確な判断、決断を下すことで、優位性を保つことにある。これにより、その準備、段取りに使う時間が確保できる。情報分析は大きく2つあり、外的なもの(国内外の状勢等)と内的なもの(自分達が今置かれている現況分析)がある。


中国故事、孫子の兵法には「彼を知り己を知れば、百戦してあやうからず」と書き記してある。彼とは外敵の情報分析、己とは自分と自分を取り巻く情報分析である。この2つを知れば百戦しても負けることはないと言う意であろう。もし内外の情報分析をしないとすれば、見込み違いが生じ判断を誤る。その原因は ①情報不足 ②思い込み ③慢心である。これにより日本の戦国大名は滅んだ。内外の正確な情報分析が的確な判断、決断につながることは疑う余地もない。それら内外の情報分析、的確な判断を行う役割が軍師(蜀の孔明・魏の仲達・呉の周瑜)であり、そして、彼ら軍師達の情報分析、判断に基づいて最終決断を下す役割が、最高責任者である国主(蜀王の劉備・魏王の曹操・呉王の孫権)であった。


天才軍師孔明と仲達共に情報分析には大変長けていた。では、彼らはどうやって頭の中を整理し、どのようにして的確な判断を行ったのだろうか?孔明と仲達は共に兵法に精通しており、その豊富な基本知識、原理原則を基盤にした応用展開力、加えて実戦経験を積みながらのフィードバック分析等、高い学習能力からくるものであろう。これにより知見(知識と経験から学んだノウハウ)を深め、その知見は兵法だけにとどまらず、あらゆる分野に精通していた。


それらの知見により物事の本質が捉えやすくなり、頭の中の引き出し(DB化)が整理されたと思われる。その結果、孔明、仲達の頭の中で整理された多くの引き出しが物事の本質とシンクロ(同期)して的確な判断となったのではないだろうか・・・その分析手法としては、現在の自軍が置かれている現況と戦力分析したSWOT分析(自軍の強み・弱み・機会・脅威)が一般的ではあろう。ただ孔明と仲達が他よりも特に優れていた分析手法が3つある。

1.「要因解析」- 事実から物事の因果関係を測る。問題点は何か?その原因は何か?を分析する。

2.「反実仮想性」- 事実と反対のことを想定する。「もし~だったら…だろうに」というように 事実を基にした「要因解析」とのバランスをはかる。

3.「シミュレーション分析」-「要因解析」と「反実仮想性」の2つの分析を組みあわせて、いくつかのパターンを事前に想定し、手を打っていく。また事態の流れ、変化を事前に予測分析しプロセスと流れを読む。そして流れの先にあるものを読み込む。孔明、仲達共に人の心を読み解く洞察力は他を圧倒していた。そのための情報戦を得意としていた。


三国志は曹操と劉備の死を境に、蜀と魏の軍師、孔明と仲達との壮絶な戦いがここから始まる。蜀の軍師である孔明は、亡き劉備の遺言で蜀の存続を託され、そのために自分が生きている間に北の脅威である魏を征服し、自分が亡くなった後の蜀の安泰を図った。そこに立ちふさがったのが魏の軍師である仲達である。孔明、仲達、両軍師の知恵比べである。


有名な「空城の計」では、空城で一人孔明が琴を弾き、仲達が孔明の罠かと警戒し軍を撤退した。これにより蜀軍は危機を脱した。「上方谷の戦い」では、兵站(武器弾薬・兵糧補給の確保)に両軍が奔走し情報戦を繰り広げた。現代経営における、SCM分析(物流=ロジスティックス)である。蜀軍孔明の火責めが功を奏したかに見えたが、突然の雨で魏軍の仲達は命拾いした。三国志のクライマックスは、孔明の生前最期の戦い、「五丈原の戦い」である。先に述べた事実と反対のことを想定する「もし~だったら…だろうに」という「反実仮想性」が思い浮かぶ。孔明は五丈原で魏軍と対陣している最中に病死し、蜀軍は陣を引き払って帰国しようとした。孔明が死んだと聞いた魏軍の仲達は追撃を始めたが、蜀が反撃の構えを示すと、孔明 が死んだと見せかける計略だったのではと疑い、あわてて退却したという。「死せる孔明、生きる仲達を走らす」は故事として今も語り継がれている。孔明は死んでもなお、魏軍仲達を翻弄させた。孔明最期の劉備への忠義は見事であり美しい。


孔明、仲達、周瑜の軍師達に求められたのは、情報分析に基づいた的確な判断力であった。そのために欠かせないのが感情コントロールである。人間には誰しも感情はある。彼らは常に自分自身の冷静さを保つことに努めた。何故なら感情が思考を消すからである。思考とは考えること、理解力、ロジックであり、物事を客観視しながら評価、分析を行い、抽象的なものを具体化し、問題の本質(根っこ)を探り出し、正しく検証する力である。そのためには、いつも頭の中を整理する。感情コントロールしていかに冷静な判断ができるか?感情が思考を消すことを忘れてならない。


最近は第三次AI(人工知能)ブームの到来で、AIと連動するビックデータ分析が注目されている。ビックデータを食材、AIを料理人に例えると、その関係性は食材(データ)がないと料理人(AI)は料理が出来ない関係にある。AIという料理人は料理のレシピ(クックパッド)をつくり、それがDB化していく。多くの時代を経て、今我々はそういうデータ社会に生きている。今後データ提供型ビジネスがますます浸透していくことだろう。ただ情報分析(データ)は目的に対する手段であり、目的はデータを用いて判断、決断することである。データにも定量データ(数値化できる)と定性データ(数値化できない)ものがある。数値化、共通化できない定性データをどう分析し、判断材料に生かすかが今後の課題となる。


前回コラムのテーマが情報発信力(伝える力)キーワードを表現力とするなら、今回テーマの情報分析力のキーワードは考える力(思考力)であった。今月3月11日で東日本大震災から7年が経った。震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りする。次回コラムは、リスクを事前に読みとるためのリスクマネジメントについて語っていきたい。


平成30年3月27日


 

三国志から学ぶ(その16) 情報発信力(伝える力)

前回コラムは 「木を見て森も見る」 全体最適と部分最適について考察した。
部分最適と全体最適の共存を図るアメリカ合衆国では、異民族国家であるが故に、多様な考えを理解する力(多様性=ダイバーシテイ)と表現力(自分の言葉で、シンプルに、わかりやすく)等の対話力が何よりも求められていることを述べた。今回コラムではその対話力の基軸となる情報発信力(伝える力)について、三国志のリーダー・軍師達の実例等を交えて語っていきたい。
(注:劉備玄徳=劉備 ・曹操孟徳=曹操 ・孫権仲謀=孫権 ・諸葛亮孔明=孔明)


新年は箱根駅伝をTVで見て過ごした。青山学院の4連覇は見事だった。
合間のCMは新年の駅伝仕様になっており各社趣向を凝らしたものであった。
物事の本質を見事に捉えたCM。15~30秒で視聴者に「おやっ」と思わせる企業・商品サービスイメージをキャッチコピーやキーワードで紐づけて購買につなげる。
我が社に置き換え「一分間で自社について述べよ」と聞かれたとすれば、自分はどのようにプレゼンするか・・・
2月8日にせまった弊社商品のプレゼンを考える。働き方改革がテーマである。プレゼンで真っ先に思い浮かぶのが、故スティーブ、ジョブスが「iPod」を初めて披露した際の「1000曲をポケットに」というメッセージだ。
シンプルな言葉が観衆の心を捉えた。


聴衆が興味を持っているポイントは3つ。

①今、何を解決すべきか?

②そのためにどう行動すればいいか?

③そのためには何を決定すればいいか?

一度に3つ以上言わないことである。
相手のことを自分の立場に置き換えて考える。相手が知りたいイメージを具体的な数字でシンプルに伝える。


本題に戻ろう。今回コラムは三国志のリーダー・軍師達からの発信力(方針・指示命令等)と部下から上司への伝達力(報連相等)について考察していきたい。
これらが一方通行でなく、双方向での対話型になることで、情報共有化が可能となり組織が同じ方向に進むことができる。


三国志のリーダー達が発信する言葉の力は大きい。何故なら発信した言葉は自軍を動かす行動をつくるからである。
リーダー達の言葉には、短期的な指示命令だけでない長期的に組織内に浸透させる理念(価値観)ビジョン(方向性)ミッション(使命観)のような根幹的、本質的なものも含まれる。ここに筆者の心に染み入る劉備、孔明、曹操の言葉がある。


〇「大業の成就を願うならば、人心とは仁義をもってつかむもの」
仁義をもって人心を掌握する、いかにも劉備らしい価値観である。

〇「禍は必ずくる。禍福はあざなえる縄の如し」
禍福は縄のように交互に訪れる。不幸だと思ったことが幸福に転じ、幸福だと思っていたことが不幸に転じたりする。 成功も失敗も縄のように表裏をなして、めまぐるしく変化するものだという物事の本質を知り尽くした孔明ならではの大局的な自然の摂理である。

〇「憤(いきどお)るな」
憤ると知恵が働かなくなる「敵を恨むな」恨むと共に判断が失われる。敵を恨むより利用することを考えよ。人生でトラブルに遭遇した時に、どう生きるかが問題である。前を見てそこから早く立ち上げ、進むことが出来るかである。過ぎさったことはしようがない。現実を受け入れ今からどうするかが大切である。失敗とどう向き合うか?それが大切である。敗軍の将は兵を語らず。敗戦の時にこそ逆に軍を鼓舞奨励し、士気を高めるリーダー曹操の真骨頂の弁である。三国志のリーダー達の言葉には「あの人についていきたい」と思わせるような味わい深いものがある。


一方軍隊から上層部への報連相等の情報発信力(伝える力)は、企業での報告書や企画書(その背景、目的、事実、課題、解決方法、結論、所感)の手順と同じである。

①目的を伝える

②事実を述べる

③問題点の抽出

④自分の所感(主観)を述べる。


三国志では現場状況を絵図で伝える場面も目にした。絵図は情報発信に於いてはより効果的である。


情報発信で最もやってはいけないことは事実と自分の主観を混在させ事実であるかのように報告することである。
自分の思い込みが入るからだ。誤報により軍は危機的な状況に陥る。


日本人の長所としては感性が豊かで繊細で情緒的である。その反面、諸外国と比べると相手に対し、自分の意見を、自分の言葉で、シンプルに、わかりやすく伝える表現力が課題であると言われている。
野球のキャッチボールのように相手が構えているミットに目がけてボール(自分が伝えたいこと)を投げ入れられるか?
まさに対話力とは野球のキャッチボールのようなものである。


次回コラムは、情報発信力(伝える力)を行う上で、重要な位置づけを占める事実・状況・シミュレーション等の情報分析力ついて考察していきたい。


令和元年9月11日